マンション管理組合と争っている裁判3の準備書面を送付しました。期日は再来週ですが、自分の書いた書面なので公開します。個人名などは□で置き換えてます。
ワードからコピーすると太字などもそのまま引き継ぐし、証拠説明書の表もコピーできました。
第2準備書面
令和5年8月15日
□□地方裁判所 御中
原告 □□□□ 印
背景となる事実関係や、参考にできる裁判例もふまえて、あらためての主張を行います。
第1 背景となる事実関係
1 マンションのリフォームについて
原告の居住する□□□□マンションでは、区分所有者がリフォーム工事を行う際に届を出す必要があります。参考として別の区分所有者の届を、甲11号証として提出します。宛先は管理組合と管理会社である被告□□□□□□□□株式会社の両方となっていて、両者に各1枚を提出することになっています。原告がサッシの交換工事をする際も、同様な届を提出して許可を受けました。
トイレや浴室の窓をジャロジー窓に交換した際の案内を、甲12号証として提出します。これは管理会社がジャロジー窓への交換工事を行う案内です。記載の会社名は今と異なりますが、社名変更やグループ会社への吸収分割を経ているためで、この案内を出して希望者のジャロジー窓への交換工事を行ったのは被告です。
2 マンション大規模修繕について
本件の背景となるマンション大規模修繕について説明します。
大規模修繕についての総会に出された議案で、サッシを交換することが決まりました。総会議案書(甲13)の「9.アルミサッシ交換工事」には「すべてのアルミサッシの交換工事を行います。」と書かれていますが、「※ジャロジー窓は交換対象外となります。」とも書いてあり、議案通り決議されています。
被告は、該当の総会に出席していて、議案書や議事録の作成にもかかわっています。
他のサッシについても、管理組合と工事業者との定例会議で、交換済みサッシは特に希望が無い場合には交換しないことが決まっています。第1回定例会議の議事録(甲14)によれば、工事業者から「②すでに交換済みのサッシについては希望者のみ今回交換とし、希望がない場合は工事から除外する。」と説明され、管理組合は「了解」との回答をしています。同議事録には未交換分の工事費用減額や、居住者への返金についても書かれていて、原告の別訴や調停での管理組合に対する返金要求は、これを根拠としたものです。被告は、管理会社として、これらのことも知っていました。
第2 原告の主張
1 掲示文書について
(1)管理会社の一般的な対応
マンション管理組合と管理会社との契約による対応事項は多岐にわたり、管理組合を代表する理事長からだけでなく、一般の組合員からの意見や要望に対応することもあります。たとえば、敷地内での駐車や喫煙、騒音などへの意見が組合員から管理会社に出されることがあります。管理会社は理事会と連携して問題への対処を検討して、組合員に結果や途中経過を知らせることが一般的です。
具体例で説明すると、騒音に関する苦情が組合員から管理会社にあった場合、発生源が個人宅であるか管理組合による工事等であるかにかかわらず、理事会に連絡をして対応を検討してから組合員に説明をすることが通常です。仮に、特に対応しないという理事会の結論になった場合でも、その検討結果を説明するということです。
(2)掲示文章への対応
管理組合と管理会社が共同で管理しているマンション掲示板に掲示された掲示文章(甲1)に対して、組合員である原告からの連絡があったにもかかわらず、関与しないとの回答をして何もしなかったことは、問題です。少なくとも、原告からのメールを受け取った後で理事会と対応を検討し、何かをやるやらないにかかわらず検討結果を原告に伝える程度のことは行うべきでした。
同掲示文章の内容に問題があることは一読すれば明らかであるにもかかわらず、管理組合から業務の委託を受けた被告が、理事会に相談もせず勝手な判断で「関与しない」としたことは、問題があると言わざるをえません。
被告は、事実関係への認否も行わないといった不誠実な対応を続けているため、原告としては事実の確認のために当事者尋問の求めを行う用意をしています。
2 アンケート等文章について
(1)過去の裁判例
(裁判所ウェブサイト https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1 より。 )
ア 大阪地裁の平成22年5月12日判決に「パチンコの打ち子募集及び攻略法に関する雑誌広告を見て広告主に連絡を取り,詐欺被害に遭った原告に対して,雑誌発行社及び広告代理店が過失による不法行為責任を負うと判断された事例」があります。(事件番号:平成20(ワ)5965)
同裁判では、詐欺的な広告を出した広告主だけに責任があるのではなく、「被告Bが本件各広告を提供し,被告Aが本件雑誌に掲載したことにつき,過失があるか」について争われた結果として、責任を負うとの判決が出ています。
不法行為が成立することについて、「雑誌広告は,雑誌上への掲載行為によって初めて実現されるものであり,その広告に対する読者らの信頼は,当該雑誌やその発行者に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく,広告媒体業務にも携わる雑誌社及びその広告の仲介・取次をする広告代理店としては,雑誌広告の持つ影響力の大きさに照らし,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって,読者らに不測の損害を及ぼすことを予見し,又は予見し得た場合には,真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり,その限りにおいては雑誌広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解され,その義務に違反した場合は不法行為が成立すると解される。」としています。
イ 最高裁の「新聞社が新聞広告を掲載する場合の注意義務」についての判例で、「新聞広告は、新聞紙上への掲載行為によってはじめて実現されるものであり、右広告に対する読者らの信頼は、高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく、広告媒体業務にも携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取次をする広告社としては、新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし、広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合には、真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり、」としています。(平成元年9月19日判決 事件番号:昭和59(オ)1129)
ウ これらの判決は、雑誌広告や新聞広告に関するものですが、本件での被告により印刷と配布がされたアンケート等文章についても当てはまると考えられます。
名誉毀損に関する最高裁の判例(昭和29(オ)634)も新聞記事についてのものですが、それ以外の文章の場合にも適用されています。
(2)事実の適示と社会的評価の低下
アンケート等文章(甲3)の「調停でアルミサッシマド未交換住戸から金銭の要求の申し立てが行なわれました。」(1頁)と書かれている調停を行ったのは原告です。「前理事長(□□□□)」(4頁)と原告の管理組合での役職と部屋番号も書かれています。よって、該当文章が原告に対してのものであることがわかります。
「規約を遵守せず、前所有者が取付したサッシマドの金額迄の要求」(4頁)との事実の適示を、文章全体の文脈から読むと、原告が規約を守らないという印象や、不当に金銭要求しているかのような印象をあたえるものであり、社会的評価を低下させます。原告がサッシの交換工事をする際に、管理組合や被告管理会社に届を出して、許可を得て工事を行ったのは前述の通りです。また、前所有者がジャロジー窓へ交換したことも、前述のように被告の案内を受けてのものです。
返金要求についても、前述の大規模修繕工事での工事業者と管理組合との定例会議での結果を受けてのものです。
さらに、総会や工事業者との定例会議で決めたことであるにもかかわらず、「今回の工事でジャロジイマド(総会で欠点の説明あり)突出しマドに(ペアガラス、網戸付)交換しない理由。」(2頁)や「今回の工事で統一したアルミサッシマド(構造、デザインに優れたサッシ)に交換しない理由。(総会では議決、現物見本確認済)」(3頁)との質問で、あたかも原告や該当の組合員の勝手でサッシが未交換であるかのような印象を与えて、社会的評価を低下させています。
前述したように、原告のサッシ工事に関する一連の言動が規約に違反するものではないことなどは、問題の書面が発行された時点で被告は知っていました。
(3)アンケートの目的
アンケートの正当性についても疑義があります。アンケートの結果について組合員に公開されたのは、4頁「裁判所に申し立ての件」のみで、2頁「ジャロジィ窓の件」と3頁「引き違いマドの件」については集まった回答が組合員に示されていません。このことから、少なくとも2頁と3頁の内容については、組合員からの意見を集めるためのアンケートではなく、もっぱら脅しのために作成されたものであることが推定できます。組合員の意見を聞くのではなく、意見を封じるための文章を、管理組合が作成し、被告が印刷し配布したのです。
(4)被告の義務違反
被告は、前述したように原告住居のサッシ交換やジャロジー窓交換が問題のないものであることを知りながら、アンケート等文章をそのまま印刷して配布しています。前述した判例に「内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見しえた場合には、真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり」とあるように、被告には、誤った事実によって原告に被害を及ぼすおそれのあるアンケート文章を提供してはならない義務がありながら、提供した過失があります。
(5)小括
被告は、本件マンションが建てられた時からマンション管理業務を行っています。そのため理事会で従来の管理組合の立場と異なる認識が示された場合には、適切な助言を行うことも容易であると考えられます。にもかかわらず、前述のように誤った事実で原告の名誉を棄損し、脅す内容を含む文章を、適切な対応をとらないまま、マンション組合員に提供してしまいました。
文章を受け取った組合員の内容に対する判断は、長年の管理会社である被告に対する信頼と無関係ではないことも考えると、原告の社会的評価を低下させたことへの因果関係についてもあると認められます。
これらの検討によれば、被告に過失があり、不法行為責任が存在すると認められます。
3 別訴2の訴状等公開について
(1)事実関係と善管注意義務違反
マンション総会で訴状等が公開された経緯について説明するため、2022年度第4回理事会議事録を甲15号証として提出します。「③第2回臨時総会提出議案の検討」(3頁)で、「管理会社により提出された第2回臨時総会提出議案の素案について確認をし」のように書かれていて、訴状等の公開を含む第3号議案が、被告管理会社による提案であったことがわかります。「管理組合として応訴する」といった間違った事実の記述も、被告によるものです。
前々理事長である原告が業務上作成した総会議事録に対して、前理事長である別訴被告□□氏が出した議事録修正を求める書面に関する訴訟で、片方の当事者である□□氏の弁護士費用のみを管理組合が負担するというのが不公平であるというのはこれまでも述べたとおりです。管理会社として、組合員を公平に扱わない総会議案を理事会に提案したことが、善良な管理者として適切ではない行為であり、善管注意義務に違反しています。
3号議案に訴状の内容を付けることは被告による提案で、議事録にも「第3号議案には訴状の内容を記載する」(4頁)とあることなどから、同総会議案について被告の故意によって行われたものであることがわかります。
まだ同別訴では被告従業員の□□氏も被告になっていて、その点では被告も関係者であり、理事会でも「それでは□□氏の主張を認めることになるので、少なくとも当社は受け入れられない。」(4頁)という発言が被告により行われています。被告が自社従業員についての対応をどうするかは自由であるものの、理事会の支援業務では切り離して考えるべきであるにも関わらず、被告に都合がいいように誘導している様子もうかがわれ、これも善管注意義務に反する可能性がある適切ではない行為だと考えられます。
(2)プライバシー権の侵害
原告は自らの個人的な情報をみだりに開示されたくないと考えていますが、被告の総会議案の提案にともなう訴状内容の公開によって、プライバシーが侵害されました。また、同議案は、原告が理事長として行った総会議事録作成や契約業務に問題があったかのような印象をあたえることで、原告の社会的評価を低下させています。
総会議事録作成については区分所有法42条に定めがあり、71条では虚偽記載に対する罰則もあるため、仮に総会議事録に誤りがあったとするならば、作成者は違法な行為をしていることになります。そして、同議案によって、原告が区分所有法を守っていないという社会的評価が発生します。つまり、社会的評価も低下すると判断するのが妥当と思われます。
百歩譲って、議案で裁判についての説明が必要であったとしても、原告の名前はともかく、住所や電話番号といった個人情報を公開する必要は全くないわけです。
にもかかわらず、原告の個人情報をみだりに開示したことについて、被告には不法行為責任があります。
本件においては、形式としてはマンション管理組合の総会での資料として組合員に配布されたものでありますが、マンション組合員は隣接する住居に住む住人であるわけで、組合員への訴状の配布は、近所の人への訴状の公開としての意味も持ちます。今回のようなことが問題無いとされてしまったら、任意の訴訟において当事者が入手した訴訟書類を、相手方の近所に配布することができてしまいます。
(3)類似の事件
民事訴訟法91条で、訴状の閲覧はだれにでもできると決められています。しかし、複写に関しては当事者にしか認められておらず、今回のような訴状等がそのままの形で複写され、公開されることは法の想定外であろうと思われます。
類似の事件として、「破産者マップ事件」というのがあります。これは官報で公開された破産者についての情報が、ある人物によってまとめられてインターネットで公開されていた問題で、国の個人情報保護委員会が2022年11月2日に、多数の破産者の個人データを違法に公開しているとしてサイト運営者に対して、停止命令をだしています。(甲16)
サイト運営者が処分の取り消しを求めた裁判では、東京地裁3月9日の判決で、「個人の権利侵害は深刻で、処分は適法」と判断し、請求を棄却しています。
こういった個人情報保護の観点からも、被告の行った原告の個人情報の公開は問題であったと考えられます。そもそも、原告は個人情報の提供に同意していません。被告は、本人の同意を得ないで個人情報をマンション組合員に提供しているので、個人情報保護法27条に違反しています。
4 結語
よって、訴状の請求の趣旨で述べた通り、被告に賠償金および謝罪文による謝罪を命ずる判決を求めます。
5 参考
原告と被告は、昨年にも別件で調停を行っていますが、その時に被告(相手方)から出てきた書面を参考として提出します。(甲17)
この時は、書面提出を受けて、調停は取り下げました。今回も、原告としては被告が自身の主張内容について事実関係を書いた書面を出してくれれば良かったのですが、出さないということですので、裁判を続けます。
別訴2については、7月20日の判決があり、残念ながら原告敗訴になりましたが、控訴して裁判を続けることも参考として述べておきます。
以上
証 拠 方 法
証拠説明書3記載の通り
付 属 書 類
1 第2準備書面副本 1通
2 甲号証正副本 各1通
3 証拠説明書3正副本 各1通
証拠説明書3(甲11~17号証)
号証 |
標目 |
原本 ・写し |
作成年月日 |
作成者 |
立証趣旨 |
備考 |
11 |
専有部分工事 施工届 |
写し |
2021年 2月12日 |
マンション 区分所有者 |
マンションのリフォーム工事届の宛先が管理組合と被告であること。 |
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12 |
風呂トイレサッシ窓取替工事 案内 |
写し |
2006年 10月23日 |
被告 |
被告が管理組合の依頼でジャロジー窓への交換工事をしたこと。 |
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13 |
2019年度 第1回臨時総会議案書 |
写し |
2019年 10月5日 |
マンション 管理組合 |
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14 |
第1回定例会議 議事録 |
写し |
2020年 2月9日 |
工事会社 |
大規模修繕工事で、交換済みサッシは交換しないとの合意があったこと。 |
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15 |
2022年度 第4回理事会 議事録 |
写し |
2022年 11月6日 |
マンション 管理組合 |
訴状等の公開を含む第三号議案が被告により提案されたこと。 |
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16 |
プレスリリース |
写し |
2022年 11月2日 |
個人情報 保護委員会 |
国が公開した破産者の情報であっても、個人情報の公開が問題であること。 |
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17 |
経緯書 |
写し |
2022年 9月28日 |
被告 |
昨年の調停で、被告が説明のための文章をだしたこと。 |
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